「少年の心」とは何なのか

Twitterで突如「少年の心」というワードがトレンド入りを果たした。

何かと思えば、「就職説明会で女性がした『女性は少年ジャンプの編集者にはなれませんか』という質問に対し、集英社の人間が『ジャンプの編集には少年の心がないとなれません』」と答えたことが、物議を醸しているらしい(ツイート主が削除しているようなので、引用は控える)。

「少年の心」とはなんなのか、現実的に女性はジャンプの編集者になれるのか、自分なりに整理しながら書いていこうと思う。

 

 

集英社は男女に均等に雇用機会を与えていないのか

そもそもジャンプの編集部は株式会社集英社のいち部門であるため、会社全体で見て雇用の機会が男性社員に偏っているということはないだろう。

当たり前だが、就活生は集英社に内定をもらった場合は、研修等を経て各部署に振り分けられることになる。

「りぼん」「マーガレット」と言った少女漫画、「nonno」「MAQUIA」「SEVENTEEN」と言った女性雑誌の編集部には恐らく女性編集者が多く在籍しているだろう。

 

 

・「少年の心」とはなんなのか

編集者の大事な仕事のひとつに、作家と共に作品のの展開を考えたり、より良くなるよう提案していくことが挙げられる。

だが編集者は、自分の好きな漫画を載せればいい訳でも、作品を自分の面白いと感じる展開に持っていけばいい訳でもない。

売れる作品を分析して世に送り出していかなければならないため、ターゲットに合わせた「マーケティング戦略」を第一に考える必要がある。

例えばジャンプの作品がとても好きな女性がジャンプの編集者になったして、自分の好きな展開(イケメンAくんやBくんの出番を増やす、男同士の会話を増やす等)にばかり持っていくと、ターゲットとしている男の子や男性の支持を失う可能性が高い。

同じように男性が女性雑誌の編集者になって、男ウケコスメや流行りに逆らうモテコーデばかりを推しても女性は離れていくだろう。

勿論自分の好みがターゲット層の好みと一致している方や、自分の好みとは切り離して少年たちが面白いと思える展開を考えることができる方なら問題ないとも言えるし、それが出来ないなら性別に関係なく編集者としては使えない。

その「ターゲット層の求めるものを把握し、提案できる能力」を噛み砕いて言ったものが「少年の心」なのではないだろうか。

この言葉に「女性は少年漫画に携わるな」だとか「女性に少年漫画の良さは分からない」といった意図はないと自分は考える。

 

 

・ジャンプに関わる人間に「少年の心を持った女性」は存在するのか

作家で言うと「家庭教師ヒットマンREBORN!!」の天野明先生、「D.Gray-man」の星野桂先生、「いちご100%」「あねどきっ」の河下水希先生は女性だが、長く連載しアニメ化する程度には読者の支持を得ている。

他誌でも「マギ」「鋼の錬金術師」「犬夜叉」の作者は女性だ。逆に少女漫画である「月刊少女野崎くん」の作者は男性である。

この方たちは、その漫画雑誌の購買層の好みに沿う漫画を描き、性別に関係なく評価されてきた実績がある。

また、「快感フレーズ」の新條まゆ先生は女性だが、小学館から集英社に移籍する際に連載の場を少年漫画に移している。

少年漫画と少女漫画に限ったことではなく、年齢層が少年ジャンプ向けではないからヤングジャンプで、というように発表の場を作風に合わせて変えていくことも珍しくない。マーケティングの一環で、より作品を評価してくれるターゲットがいる場所に移動しただけである。

これらの事実から「少年の心」を持っている人間は性別に関わらずに存在しているし、女性を編集者が差別している事実はないと言えるだろう。

 

 

・女性は少年ジャンプの編集者になれるのか

集英社に入った女性で「少年ジャンプの編集者を志している人間」が今までどれほどいたのかが分からないので判断はは難しい。

配属希望でジャンプを志望した編集者は大半が男性だろうし、りぼんは大半が女性だろうから、ジャンプに男性編集者が多いという事実を見て「ジャンプの編集部にはこれだけしか女性がいない!これは差別!」ということにはならない。

前例があるという言葉を信じるならば、まずは集英社に入社し、その希望を伝え、自分が少年に楽しんでもらえる作品を作家とともに産み出せる「少年の心を持った女性」であることを最初の配属や異動の際に伝えていけば、きっとその道は開けるだろう。

私自身は「女性の観点から見た『ジャンプのターゲットにウケると感じる作品』」を見てみたいと思うので、期待している。